「自殺のない社会へ」(有斐閣)澤田康幸 上田路子 松林哲也


第56回日経・経済図書文化賞を受賞した本です。


気になったところを勝手にまとめます。

  • 『今昔物語集』に収められている「御読経の僧が平茸にあたる話」は自殺の経済的インセンティブにかかわる説話になっている。

 僧が平茸にあたって亡くなってしまったところ、左大臣が同情して手厚く葬った。それを聞いた他の僧が一生懸命に平茸を食っている。「なぜそんな危ないことをするのか」と聞いてみると、「手厚く葬ってもらいたくて平茸にあたって死のうと思った」ということである。


  • 病気などの原因で家族を亡くした場合に比べて、自殺で亡くした場合には遺族への精神的影響が大きいことが知られている。
  • 精神疾患既往歴等に関わらず自死遺族の自殺リスクは一般市民に比べて2倍以上高い。
  • 親を自殺によって亡くした未成年者は、親が健在な若者よりも自殺によって死亡するリスクが3倍近く高い。
  • 生活保護受給者の自殺率は、全人口の自殺率の2倍以上。
  • 多くの実証研究において、失業率が高いことと自殺率が高いこととの相関関係が明らかになっている。
  • 所得の不平等が拡大すると自殺率が増える傾向にある。
  • 災害が起こると、社会的つながりが強化されて、自殺率が低下する可能性がある。
  • 自然災害による死者数が多かった地域においては、災害発生から1,2年後に自殺率が一時的に上昇する。一方で罹災者数が多かった地域においては、災害発生から特に1,2年後に自殺率が一時的に減少する。そして、このような効果はとくに男性65歳未満自殺率に顕著に見られる。
  • 失業率の上昇は65歳未満の男性の自殺率を増加させる。65歳未満の女性と65歳以上の人口においては無関係だった。
  • 離婚率の増加は65歳未満の女性の自殺率の増加を伴う傾向にある。
  • 65歳未満人口の自殺率に関しては行政投資の額や失業対策費など経済政策との関連性が高いのに対し、65歳以上人口については経済政策よりも福祉政策のほうが自殺率の減少により効果的である可能性がある。
  • 青色灯を設置すると自殺を抑止できる可能性がある。





著者が経済学者なのもあってか、本では回帰分析をよく行っていました。回帰分析を用いて自殺を発生させるもの・抑止できるものを測定していました。


災害は必ずしも自殺を増やすものではないと書いてあり、驚きました。社会的つながりが強化されるからという考察は興味深かったです。


しかし、死者数の多い災害は自殺率を増加させたという分析だったので、小規模な災害と大規模な災害をわける必要があるのかもしれません。


大規模な災害は、発生から1,2年後の(65歳未満)自殺率を増加させるので、中長期にわたる適切な自殺対策が必要になるかもしれないと書いてありました。





回帰分析から自殺対策のアプローチをしていて、興味深い本でした。