最近、橘玲氏の「言ってはいけない 残酷すぎる真実」が売れているそうです。(私は読んでいないので詳しくは知りませんが)この本は"遺伝によって多くのことが決められてます"という内容らしいです。この本の根拠になっている本を書かれた著者(安藤寿康氏)が、改めて遺伝について書いたものがこの本になります。
内容はとても面白かったです。遺伝によって決まっていること、環境によって変えられることがわかりやすく解説してありました。橘玲氏の本は読んでいないのでよくわかりませんが、遺伝について知りたいならこの本だけでも良いとおもいます。
気になったところを勝手にまとめます
- 走る筋肉の多くは遺伝で決まる。
- 「外交性」「不安傾向」「自尊感情」などといったものは心理学者が思いつきで考えたものではなく、概念的定義と操作的定義を決めてたくさんのデータで開発努力をしており、いいかげんなものではない。
- 産業革命によって抽象的概念が必要となり、学校教育が普及した。
- かつては天才・エリートに求められていた賢さを、あらゆる人に求められるようになり、遺伝の差が表れるようになった。
- 学業成績は外交的な人より内向的な人が少し高い。
- 協調性が高い人は寿命が長い。
体重は遺伝90%
身長は遺伝90%
統合失調症は遺伝80%
自閉症は遺伝80%
ADHDは遺伝80%
不倫は遺伝30%
遺伝とは「ばらつきの度合い」である。
- 外国語の才能や物質依存などを除けば、個人差の大部分は非共有環境によって成り立っていて、基本的に家庭環境や親の影響はあまりない。
- 両親を足して2で割ったくらいの子どもが産まれる可能性が一番高いのは確か。
- 遺伝子は、ある条件では不利だけれども、別の条件では有利になるものがあるので、一概に悪い遺伝子(病気になる遺伝子)を否定できない。これを、非相加的遺伝効果という。
- 教育は人間が生きる上で必要不可欠であるが、どの領域でどの程度のレベルに行けるかは遺伝的要素である程度決まる。
- 努力して工夫して勉強さえすればいい大学へ行けるという信仰を、行動遺伝学の研究結果は否定した。
- 女性に限り、遺伝が収入に及ぼす影響は、ほぼゼロ。
- 遺伝子検査は「科学的装いの占い」
- 友人関係が子どもの成長に重要な役割を果たすのは間違いないが、本や絵に熱中しているのであればそれも子どもにとっての友達であり、非共有環境である。
- 犯罪傾向やうつ病は遺伝と環境の交互作用で、どちらかが欠けていると発現しない。
- 学力の70%〜90%は、子ども自身にはどうしようもないところで決定づけられている。にもかかわらず「頑張りなさい」というのは、科学的に見て不条理。
ばらつきの度合いとはなんなのかを説明します。
Aさんの体重75kg
Bさんの体重75kg
Cさんの体重75kg
世間の平均体重65kgと仮定します。
Aさんは遺伝的に70kgになる素質なのに食べすぎて+5kgになっている。
Bさんは遺伝的に80kgになる素質なのにダイエットで-5kgになっている。
Cさんは遺伝的に75kgになる素質があり、75kgになっている。
同じ75kgの人でも遺伝的資質と環境にはばらつきがあり、その総和が体重になっている。
つまり、遺伝的要因のみで平均からはずれている人もいるし、遺伝的要因+環境要因によって平均からはずれている人もいる。
このときの遺伝のばらつきと、環境のばらつきを相対的に示したものが遺伝と環境の説明になります。
これだけではよくわからないかもしれませんが、とりあえず、体重が平均よりはずれている人(太っている人・痩せている人)は遺伝による影響の可能性が高く、食生活が影響している可能性は低いということです。遺伝によって平均からはずれた体重になっている場合、食生活によってそれをくつがえすのは難しいです。
日本人の90%の人の体重は遺伝によってきめられていて、食生活が原因で太っている人・痩せている人は10%しかいないということです。(私の理解の仕方が間違っていたらごめんなさい)
行動遺伝学の基礎知識を得たい方、教育について考えたい方は読んで損はしない本です。
「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(SB新書)安藤寿康