「空白を満たしなさい」平野啓一郎 を読んだ感想

平野啓一郎氏のことは、新書「私とは何か」を読んで知り、面白かったので小説も読んでみようと思って、「空白を満たしなさい」を読みました。


ストーリーは、死んだ人間が世界各地で生き還るファンタジーで、生と死について考えさせられるものです。


突然よみがえった主人公の徹生が、自分がなぜ亡くなったのかを、なぜ死ななければならなかったのかを、妻、子ども、親、友人、知人の関係について悩みながら、模索する。


読んだ感想は、面白かったです。


ただ、亡くなった理由に関しては、いまいち納得がいかないと言うか、腑に落ちないと言うか、しっくりこないと言うか、ピンとこないと言うか、なんと表現していいか分かりませんが、すんなりと心に入ってくるものではありませんでした。


これは、亡くなった人に生きている人がいないため、亡くなった理由を知ることができない、想像するしかできないので、結果的によくわからないことになってしまったのかもしれません。


もしくは、私が、妻も子どももいない、サラリーマンでもない人間であることが影響しているのかもしれません。


どちらにせよ、亡くなった理由については、?という印象でした。唯一この本で面白くないと思った部分でした。


それ以外の、夫婦関係や親子関係の難しさであったり、サラリーマンという職業の辛さであったり、友人関係の嬉しさであったり、考えさせられる部分は多かったです。


この本ではよみがえった人を「復生者」と呼び、社会とは相容れない存在であるように描いていました。人がよみがえることは、本来嬉しいことであると私は思うのですが、作中では奇異の目で見られるどちらかといえばネガティブな存在であるように描かれていました。


常識では考えられないことが起きたとき、理解できないものは排除しようとする社会の風潮を表現したのかもしれません。


登場人物の中で、おそらく最も印象に残る人物は佐伯でしょう。最初から最後まで、徹生は佐伯に振り回されています。比較的まともな人間、日常生活の中でも見かけるような人間が多いなか、佐伯はかなり強烈なキャラクターとなっています。


佐伯の存在によって、この話は面白いものになっていますが、私は佐伯が嫌いです。彼もこの意見は尊重してくれるはずです。


私にとっての幸せは何なのか分かりません。


でも、面白い本に出会えることは、幸せの1つだと思います。


長編小説なので、読むのに時間のかかる本ではありますが、読み切った後は、感動できる作品だと思いました。