「人生に生きる価値はない」(新潮文庫)中島義道

引用と感想

 職場における人間関係で悩む人でも、気の置けない友人の二人や三人はいるであろう。それさえいない人、世の中の誰ともうまくやって行けない人は、むしろ「才能」なのだから、それを伸ばすべきではないか。普遍的に人が嫌いなら、懸命に一人で生活できるように努力すればいい。それだけのことである。こうした生き方が別段劣っているわけではない。

15,16p


私も劣っているわけではないと思います。ひとりで生きていけるのも才能だと思います。おそらく、多くの人は1人では生きていけません。1人で生活できるのは才能だと思います。


しかし、1人で生きていきたくないのに、1人で生きていかざるを得ない人もいます。そういう人は自分のことを劣った人間だと思っていて、常につらい気持ちを抱いています。自分ではどうすることもできない現実に、もがいています。著者のような考え方になれたら良いですが、なかなかうまくはいかないかもしれません…。


開き直ることができたらいいのですが…。



ひきこもっている青年の多くは、「普通」との戦いの現場にいる。世間は「普通」であることを要求するが、自分はそこから転落した惨敗者であることを認めざるを得ない。(略)どこまでも反社会的姿勢を貫きながら、そのこと自体が社会から認知され尊敬さえされる唯一の場所は、芸術であり文学であり哲学である。だが、これがうまく運ぶためには、「反社会的特権階級」において成功しなければならない。それは大変難しく、またこの社会で敗者になったら、あとはない。

38,39p


反社会的世界で勝利するというのは面白い考え方かもしれません。資本主義社会の中で勝てなくても、新しい生き方を自分で考えて、その社会で生きていく。Phaさんとかの生き方ですね。


大人たちはこういう青年に「そんな夢みたいなこと考えるな!」とどやすが、これがまったく効き目がない。なぜなら、こうした「夢物語」を「何をしても虚しい、そしてどうせもうじき死んでしまう」という本当の物語がしっかり支えているからである。(略)ひきこもりの青年は、人生のスタートラインでどうしようもない「真実」を見てしまったのだ。(略)はたして、母親は「どうせ死んでしまうのだから虚しい」ということを、脳髄がしびれてしまうほど考えたことがあるのか?どうせ働いても、何の喜びもない、そして年取って死んでいくだけだ、という真実の残酷さを正面から見据えて取り組んだことがあるのか?

40,41p


うつ病患者のほうが、うつ病にかかっていない人よりも、物事に正常な判断が下せるという話をどこかで聞きました。働いている人よりも、病人のほうがまともな生き物である可能性は十分にあります。もしかしたら、ひきこもりはまともな人間かも…?


コミュニケーション的強者とは、「ノブレス・オブリージュ(社会的強者の責務)」を身に受けるほどの覚悟がなければならない。これは、人間は平等だという真っ赤な嘘をかなぐり捨て、自分の強さを実感するところから始まる。自分はより強いがゆえに、どこまでも困難な課題と過酷な試練を要求する。他人はより弱いがゆえに、それほどの課題も試練も要求しない。ニーチェの言葉を使えば、貴族的精神の有する「距離のパトス」、自分は強いからこそ弱い者たちと常に一定の距離を保ち、そのパトス(感受性)を大切にしようとする態度である。自分に厳しく他人に寛大な態度である。
 だが、弱者はまったく逆の態度を取る。彼らは、常にマイナスの距離のパトスを実現しようとする。他人は強いから過酷な課題をこなすことができ、こなさねばならないのだが、自分は弱いからそれが免除されてあたりまえなのだ。こうした自己否定、自己憐憫を当然のごとく行使する者、それが「弱者」の定義である。

160p


現実では他人に課題を与える人がコミュ力の高い人になっている気がします。コミュ力の高い人ばかり採用したら仕事で責任を取る人がいなくなったという話もありました。「コミュニケーション強者の新卒しかとらなかった会社の話」が恐ろしい - Togetterまとめ


ノブレス・オブリージュを実行できる人でありたいです。



 とはいえ、私は自殺したいわけでもなく、ことさら世界の終焉を望んでいるわけでもないなぜなら、そんなことをしなくても、この世はじつはもともと「無」であることが次第に判明してきたからである。(略)これこそカントの唱える「超越論的仮象」である。

271p


最近読んだ「現代語訳 般若心経」にも似たようなことが書いてありました。感想→http://gowalk.hatenablog.com/entry/2017/02/28/230000


この世は無ですね。意味なんてないです。



最後に
 

著者は「口の悪い頑固おやじ」だなと思いました。本の中で、"電車のなかで化粧をする女性"に本気で怒っていたので、そう思いました。


タイトルには共感しましたが、著者の意見にはそれほど共感できませんでした…。でも、気になるタイトルの本があるので、著者の作品はもう1つくらい読んでみようと思います。