「想像力なき日本」村上隆 を読んだ感想

本書は、日本人の芸術家で1番の有名人と思われる、村上隆の書いたマネジメント論である。彼は、カイカイキキというアート集団の代表で、国内外で高い評価を得ている。そんな人が、何を考えて作品を創っているか知りたくて、読みました。


まず驚いたのが、カイカイキキというアート集団は、極めて厳しい縦社会の、体育会系集団だということです。入社した社員は、まず初めに挨拶のレッスンを受けます。これは、アート業界が「どれだけうまくご機嫌取りができるかが問われる世界」であるからだと著者は言っています。


アーティスト志向の人たちは「アーティストは特別な人間なので、一般人より偉い」と考えがちであるが、それは誤解で「芸術の世界でどれだけ成功できたとしても、社会のヒエラルキーの中では最下層にいることからは絶対に逃げられない」ことを理解しなければ、いずれ辞める。


美大に4年通っただけで、芸術の本質、芸術で成功するための方法論は学べない。現代芸術は純粋芸術であり、大金持ちに営業をして、売らなければならないものである。そのため、客観性が求められ、好きなものを好きなように描いていてはいけない。理解してもらうために、歩み寄らなければならない。


著者も、若かった頃に、今、本に書いてあることを言われたとしたら「それは才能のない人間に限られたことだ」と思って、本気にしなかったはずだ、と言っています。


しかし、20年間さまざまな経験をしてきて、芸術家は、覚悟と肉体を資本としたアスリートであることを確信している。これを認識することが、この世界で生きていく第一歩である。と言っています。



かなり、意外でした。芸術の分野は、好きなことを好きなように表現する世界だと思っていました。思うままに創作活動を行うのが、自然だと思っていました。しかし、現実はそうではなく、お客様の趣味嗜好を把握して、営業活動を行って、買って頂くものであり、ビジネスであることが分かりました。


欧米の芸術の世界には「確固たる不文律」が存在するそうで、「見た目がきれい」ではなく「文脈」の部分が問われる。ルールを把握すれば、売れる作品をつくることができる。現代に生きている人間から、嫌われることが避けられないが、時代を乗り越えて(本人が亡くなった後)評価されるかもしれない。


つまり、生きている間は評価を受けなくても、亡くなってから評価されればいい。と考えているそうです。すごいですね。



ろくに睡眠をとらない日々を続けて、意識が朦朧としていても、絵を描き続ける。そういう生活を3年続けて、絵を描くことをしたくなくなり、本当にこれを続けていくのかと自問自答する。そこで、続ける選択肢を選べたら、芸術を生涯のなりわいとして考えられる資格が与えられる。


ブラック企業です。


実際、かなりの人が会社を辞めていくようです。ただ、著者は、それをあまり気にしておらず、残ってくれる人とは縁があり、去っていく人とは縁がない。それだけ、と言っています。




著者の考え方が、とてもよく分かる本でした。知らなかった世界を知ることができたし、芸術の先入観をいい意味で裏切ってくれました。最後に収録されていた、村上隆×川上量生対談も面白かったです。


オススメします。